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第1話  禿龍独占阻止!(冒険小説篇)

 

 今日もギランの街中は、活気に満ちあふれていた。 昨夜の攻城戦の後だからか、傷ついた戦士達が多いが、

まあ、いつもの風景だ。

俺は、ガブリヨル・スレイン。魔法使いの冒険者だ。特定の君主には仕えず、一人気ままに、冒険をしている。 

昨日は、TOI70階に登り、決死の攻撃でアイリスを倒し、貴重な71Fアミュレットを手に入れた。

『あの攻撃は、よかった』
少し口元を弛めながら、今日の狩の準備をしていく。魔力の石、回復ポーション、一通り買い物を済ませると、財布の中には、閑古鳥。
『今日は、リーズナブルな狩りをしなきゃな』
ガブリヨルは、魔法使いにしては珍しく、極貧だった。 ま、酒場でばか騒ぎしなければ、それなりにアデナは貯まるのだが、ガブリヨルには、それが無理だった。

ギランのクロス前で座り込み、バッグの中のアミュレットを眺めながら、どこに行こうかと、考えた。
『流氷にいこうかな・・・。けどさみぃから・・・なあ・・・』
立ちあがって、アミュレットを軽く握り、頭で軽く念じた。
一瞬、体が光に包まれると、ギランの街並みが、フェードアウトしていく。同時に、極寒の雪に包まれた風景が、はっきりと見えてきた。
『うおー!さびぃーじゃねーかー!こんちくちょー!』
ガブリヨルは、あまりの寒さに、悪態をついた。

狩りは順調に進んでいた。「選ばれなかった者」を、ターンアンデットで仕留めていき、「アイスマン」は、自慢の剣で屠った。ターンアンデットは、裏返った 魂を元に戻す、一種のエナジードレインの反転だ。最初は難しかったが、今では鼻歌交じりに使いこなせるようになった。

狩りをしながら、森の奥に進むと、雪と風が強くなってきた。心なしか、寒さも一段と厳しくなった気がした。
『まさか・・・、やつがいるのかな?』
草木に身を隠しつつ、辺りに目を凝らすと・・・、いた!やつだ!!
アイスクイーン! 氷の女王! 絶対零度の心を持つ女!

冒険者の血を沸かせつつも、冷静にバッグの中身を確認する。回復ポーションは残り一本、魔力の石は6個。ホッカイロ3個。 長時間狩りをしてきたので、バックは空に近かった。
『ま、やれるだけやるさ!』
アイスクイーンの護衛は、「選ばれなかった者」10匹、「アイスマン」2匹。普段なら楽勝だが・・・。
イミューンを唱え、駈け出した。 「選ばれなかった者」5匹を、最初の一斉唱和で仕留め、一番近くにいたアイスマンに、麻痺をかけた。 アイスクイーンの 激しいブリザード攻撃に耐えつつ、2匹目のアイスマンに麻痺をかけ、ついでとばかりに、残りの「選ばれなかった者」を倒した。
体力は、大半を消耗しが、まだやれる。 最後の回復ポーションを飲み干し、一気に体力を全回復させる。イミューンを再び唱え、アイスクイーンと対峙する。
『残りは、お前だけだ! 吹っ飛べ!』
ガブリヨルが、自慢の剣を躍らせる。 氷の盾を身にまとうアイスクイーンだが、この攻撃は厳しかったようだ。 一瞬怯んだ隙に、魔法の詠唱を行うガブリヨル。
『串刺しになって、昇天しやがれ!』
ガブリヨル自慢の、最大攻撃魔法「ディスインテグレード」炸裂。詠唱時間と、硬直時間が問題だが、ガブリヨルは、とどめに、この魔法を使うのが好きだった。
巨大な光の槍がアイスクイーンに突き刺さる。 苦痛の表情を浮かべ、激しく叫びながら、アイスクイーンは散った。
『終わった』
そう呟いて顔をあげると、「アイスマン」が麻痺から抜け出し、目の前に立っていた。
『まずい、やられる!』
慌てて、バッグの中を探り、適当なアミュレットを握りしめる。
一瞬、体が光に包まれると、「アイスマン」の吼える顔と拳が、フェードアウトしていく。同時に暗い風景が広がっていった。
『ここは、どこだ?』
ライトを唱え、明るくなったそこに、見えた光景は・・・
つづく(のか?)

 

第2話  ヒイロの乱舞(冒険小説編)

 

『おう!そこの堕落した魂よ!我と共にヤヒ奴を倒さぬか!』
『何をぬかしやがる!おう!そこな堕落した魂!我らと共にバルログを屠らぬか!』
何の冗談か、ヤヒ軍とバルログ軍の勧誘員が仲良く立っている。
とっさに適当なアミュレットを握りしめたので、どこに飛んだか解らなかったが、どうやら、最果ての話せる島に飛んだらしい。ま、間一髪助かった訳だ。
『悪いね!今日は店じまいだ!』
そう言って、ギラン帰還アミュレットを軽く握り、街へ戻った。

夜になっても、酒を片手に今日の狩りを自慢気に語る者や、夜の狩りに備えて買い物をする者、はたまた、愛を語り合う恋人達でギランの街中は賑やかだ。 いつものアデン商会へ行き、戦利品を換金してもらう。
『まいど!ガブリヨルさん。今日はどこに行ったんだい?』アデン商会の親父が笑顔で出迎える。
『流氷に行ってきたよ。あそこは金になるからね!』荷を解きながら、今日の出来事を語る。
『ほお!クイーンを!?寒がりのおまえさんにしちゃ、頑張ったじゃないか!よし!これは褒美だ!』と言ってキャンディーをアデナの上に出してくれた。親父のキャンディーは、疲労回復に抜群の効果がある有難い逸品だ。
キャンディーを口に含み、ありがとうと言って宿屋に足を向けた。

宿屋の酒場は街中以上に賑やかだった。カウンターに行き、宿屋の看板娘シェンに声をかける。
『シェン。とりあえず一杯くれ。 それと鍵を。』 シェンは綺麗で、宿屋に出入りするみんなが少なからず心を惹かれてる。ガブリヨルとは、父娘程の年の差があるのだが・・・。
『おかえりなさい、スレインさん。鍵はあたしにと何度言えば解るのかしら?』宿屋の元看板娘である女将さんが、笑顔で間に割って入る。じゃあ一緒に部屋に行こうと誘うと、そういう事は二人きりの時に言うものよと、軽くあしらわれる。いつものあいさつだ。
鍵を受け取りホールを見渡しながら階段を登ってると、ダークエルフの姿が目に入った。剣の自慢をしてるのか、デュアルブレードを円卓に置いて派手に騒いでいた。
『あれは確か・・・最果てのロンドゥ・・・』ガブリヨルの脳裏にある出来事がよぎった。

部屋に入ると、エリアサイレンスを唱えた。エルフの精霊魔法みたいに広い範囲は無理だが、ガブリヨルはサイレンスの術式に少し細工し、狭空間のエリアサイレンスが出来るようにしていた。宿暮らしの知恵というものだ。

静かな部屋の中で瞑想にはいるが、先程ホールで見た最果てのロンドゥデュアルブレードが、頭を離れない。いや、それに繋がる過去の記憶が呼び起こされ、それが頭を離れないのだ。
『ロンドゥ・・・、デスナイト・・・、生ける屍、死せる魂・・・、果てしなく強さを求めた者たち・・・、兄さん・・・』
ガブリヨルの頬を涙が伝った。
つづく(だめ?w)

 

 

第3話 ウェンの要求(冒険小説編)

 

『兄さーん!』そう叫びながらガブリヨルは、倒れた兄のもとへ駆け寄った。
『ああ、ガブリ…ヨル…、ほ、本当に…つよ…く、な…な…なったなあ…』息も絶え絶えに、兄は答えた。
『こ…これで…い…い。ガブリヨルよ、もう…も…も…もうここへは…く、くるな。』
ガブリヨルは泣きながら、かぶりを振った。
『これ…を…もっていけ…そ、そして…』みるみる兄の顔から生気が失せていく。
『いやだ!駄目だ兄さん!!』兄の魂を繋ぎ止めようと必死にしがみ付くガブリヨル。
『お…れ…を………こ…え……て………』


『兄さん!!』叫びながら、ガブリヨルは跳ね起きた。
『夢か・・・』昨夜の最果てのロンドゥをみて、記憶が呼び起こされたらしい。
『スレインさん?何かあったのかい?大丈夫かい?』ドアの向こうから、女将さんが話しかけてきた。サイレンスの効果は切れてるので、外までまる聞こえだったようだ。
『あぁ、大丈夫。すみませんね!ちょっと寝ぼけてててね』ベットから立ちあがり、ローブを羽織る。
『あら、本当に寝ぼけてるのね。カミカミじゃないの。シェン!スレインさんの部屋に朝食を運んどくれ』朝から元気いっぱいの女将さんだった。

昨日の事のように思い出してしまった兄との別れ。


\f1過去の出来事を読みたいですか?(y/n)


−20年前−
今日のグルーディオの町中は、和やかだった。畑仕事に行く人、猟犬と共に狩りに行く人、新鮮な果物を露天に並べている人、いつもの風景だった。
俺の名前は、ガブリヨル・スレイン。あっちこっちを旅しながら、魔法の修業をしている冒険者だ。今は、メインランドケイブの攻略に挑んでいる。
昨日探検した、メインランドケイブ4階の地図を描き上げ、魔法を使ってコピーを作った。この地図を露天で売って、今日の冒険資金を作るためだ。

ガブリヨルは宿を出て、広場で適当に露天を広げた。田舎の平和なこの町では、冒険者は少ないため話題に乏しい。そういう事情もあり、ガブリヨルの露天は話題に飢えている町の人達で、賑わいをみせていた。
『ほー、今日は4階の地図が出来上がってるねー、どれどれ』
『スレインさん、ここはどんな感じのところなんだい?恐ろしいモンスターはいたのかい?』
そんな質問にガブリヨルは、身振り手振りでちょっと大げさに冒険を町の人に語った。 そうこうしていると、地図は完売となり店仕舞いとなった。

遅めの朝食を摂り、冒険の準備を整え、メインランドケイブに向かった。今回は5階の攻略を考えていた。 一般の人が誤ってケイブに侵入しないよう、古の魔法使いが偽装した入口からケイブ入った。
入ると直ぐに、スケルトンとオークの御出迎えがあったが、ガブリヨルも予期していたので、自慢のアイアンマナスタッフで殴り倒した。

順調に歩をすすめ、5階に降りる階段にたどりついた。上からゆっくりと顔を出し、辺りを見回す。 何もいない事を確認した。 ゆっくりと階段を降りフロアに足をつけた。
『誰かいますかー?』 答えが帰ってきたら、それはそれで恐ろしいが、声を出すことで自分自身の恐怖心を抑えるために、恒例的にガブリヨルは初めての場所での声だしを行うようにしている。
何もいないようなので、一歩踏み出した。 瞬間、両脇から「シャーッ」と音を立ててスパルトイが地面から姿を現した。 一瞬怯んだガブリヨルは、最初の ターンアンデットの魔法を失敗してしまった。 悪態をつきながらスパルトイが振り下ろした剣をよけつつ、もう一度ターンアンデットを唱えた。 また失敗 だった。 チッと軽く舌打ちし、アイアンマナスタッフで手前のスパルトイを殴り2、3歩下がった。スパルトイは剣でガブリヨルの攻撃を防いだものの、よろ めいてもう一体のスパルトイと抱き合っていた。ここぞとばかりに精神を集中し魔法の詠唱を行うガブリヨル。 スパルトイが斬りかかってきたが、あと2歩の ところで突然、ガブリヨルの周辺の地面が激しく揺れながら隆起した。最近覚えたアースクエイクだ。よろけたスパルトイを、アイアンマナスタッフで殴る。  スパルトイやスケルトンは、骨に負の魂が宿っただけのモンスターなので、直接衝撃を加えれば脆く崩れ去るモンスターだった。ただ、スパルトイは地面に隠れ る事があるので、要注意なモンスターだ。アンデットなので、ターンアンデットで仕留めればいいのだが、不意を突かれたりして精神の集中を乱されると、成功 率は低い。 それ故、最近アースクエイクをガブリヨルは覚えたのだった。

メインランドケイブ5階は面白いところだった。モンスターも特に強くなく、4階とほぼ同じ感じだった。そしてなにより、体内でルビーを生成するケルベロス がいた事は、貧乏なガブリヨルにとって有難い存在だった。狩りと地図作成を進めながら、食料調達と、宝石が調達できる。探索も中盤に差し掛かったところ で、今日は休むことにした。

つづく(かな・・・) 

 第4話 砂クジラの味(冒険小説編)

 

ケイブで野宿すると、体のあちらこちらが痛い。何度も寝がえりをうちながら、それでも眠り続けようとするガブリヨル。次に寝返りをうったときに、壁に思いっきり頭をぶつけてしまった。起きろという合図だった。
『ってってってって・・・』おでこを擦りながら、ガブリヨルは起き上った。体力回復ポーションと魔力回復ポーションを、コーヒー代わりにすすって、朝食の代わりとした。

ケイブに籠って早1週間、探検は順調に進んでいた。 途中途中でターンアンデットの魔法の練習や、アースクエイクの練習を行い、まあまあの成果もあげて いった。特にターンアンデットを、指先に魔力を込める感じで詠唱し、相手を指し示すことで成功率が上がる事に気付いたのは、大きな成果だった。現に、その 方法での成功率は9割といった具合だ。

5階の散策も終わりに近づいていた。
『あとはこの細い所だけかな?』
そう呟きながら、人一人がやっと通れるくらいの緑色をした細い通路を進んでいった。 途中、あちらこちらの壁や床、天井に異様なほど傷がついていた。 不 思議に思ったガブリヨルは、傷跡を調べてみたが、ヒビではない事くらいしか解らなかった。奥に進めば進むほど傷は多くなっているように感じた。
キョロキョロしながら歩いていると、突然「シャー!」と、音と共にスパルトイが前後に立ちはだかった。 スパルトイのトラップの気配はなかった。 とっさ にアイアンマナスタッフで目の前のスパルトイを突き崩した。 振り返りながらアイアンマナスタッフを振り、後ろのスパルトイを殴り倒そうとしたが、壁にア イアンマナスタッフを打ちつけてしまい、スタッフを落としてしまった。
『いててて、やっべっ!』
スパルトイの振り下ろさるシミターを、左によけ、ターンアンデットで仕留めた。
『危なかった〜』 安堵のため息をつきながら、アイアンマナスタッフを拾い上げた。その瞬間、背筋が凍るような寒気を感じ、恐る恐る顔を上げるガブリヨル。

白色に輝く鎧、その縁は金色に輝いている。まるで火焔をまとったように輝く剣。こちらに気付いたのか、剣を一振りしてこっちに向かって歩いてきた。
『デ、デ、デスナイト?!』 噂には聞いていたが、まさかこんな所で遭遇するとは。
覚悟を決め、体力回復ポーションを飲み、イミューンをかける。念のためにカウンターマジックも唱えた。
デスナイトが何やらつぶやいた。いや、唱和した。すると、地面から次々にスパルトイが出てきた。いわゆる召喚魔法だ。
わずかの間に、スパルトイを20体程召喚するとは、ガブリヨルにとっては驚きだった。
アイアンマナスタッフを構えたガブリヨルに、デスナイトは叫んだ。
『我が名はデスナイト・カイーンン。我が警告を無視し侵入してきた事、死を以って贖うがよい!』 デスナイトがそう言い終わると、スパルトイ達が一斉に襲いかかってきた。
『警告って、もしかして、あのスパルトイかよ・・・。弱えぇっつーの!』そうぼやきながら、踵を返して通路へ一目散に駆けていった。 案の定、細い通路な ので、スパルトイ達の動きが鈍った。 ファイアーボールを浴びせつつ、怯んだスパルトイをアイアンマナスタッフで突き崩して行く。 ガブリヨルは、我なが ら賢い戦法だと思った。

スパルトイ達を全部倒し、デスナイトが近寄ってくるのを待った。 狭い通路だ、あの剣を振り回す事は出来ないはず。幸い、愛用のアイアンマナスタッフの方 が、デスナイトの剣よりも長い。突き勝負なら、俺が有利だ! そう確信したガブリヨルは、アイアンマナスタッフを構える。 悠然と歩いてきたデスナイト が、間合いに入ってきた。剣を振り上げるデスナイト。 ニヤリと口元を弛めるガブリヨル。 果たして…。
思った通り、剣を振り下ろしたデスナイトは、壁に剣をめり込ませてしまった。
『馬鹿め!狭い場所で剣を振り回せば、壁に剣が取られる道理!』そう叫びながらアイアンマナスタッフでデスナイトを突きに行くガブリヨル。しかし、デスナイトの剣は、壁にめり込んでいるが、剣速は変わらずに振り下ろされてきた。
『馬鹿な?!』 なんとか突きに行ったアイアンマナスタッフを引き戻し、デスナイトの剣を受け止め、反動で2、3歩後ずさった。
『我が剣は、デスナイトフレイムブレード。この世に斬れぬ物無しと知れ』 そう言いながら、剣を自在に振り回していた。 そう!天井、壁、床に付いていた不思議な傷跡は、この剣によって斬られた跡だったのだ。

狭い通路の利が無くなった、否、むしろ自分だけが不利になったこの状況下。一瞬帰還を考えたが、帰還スクロールを探す隙は与えてくれなそうだった。
デスナイトが一歩進めば、一歩引くしかないガブリヨル。時が静かに流れた。
(そうだ。いくら壁や床を斬れても、床が崩れれば隙が出来るはずだ。アレをやってみるか)
静かに魔法詠唱を行い、十分な間合いにデスナイトが入るのを待った。
『いまだ!』 アースクエイクを発動させるガブリヨル。 姿勢を崩したデスナイトをアイアンマナスタッフで突き崩すべく、駆けて行った。 が、デスナイトは悠然と構えていた。
『くっくっく。何だ今のは? アースクエイクとは、こうするのだよ!』 デスナイトが剣を地面に突き刺した。 何やら唱え剣を抜くと、ガブリヨルが今まで体験した事のない激しい揺れと、地面の崩壊と、なにより熱気が襲ってきた。
カウンターマジックで即死は免れたが、一気に大ダメージを受けたガブリヨルにデスナイトが静かに近づいてきた。
『一興大義であった。さあ、我が前から消え去るがよい。』デスナイトの剣がガブリヨルを斬り裂いた。  
通路が鮮やかな赤色に染まっていった。
つづく(死んだのに?)

 

 

第5話 Hirowizの悩み

 

 

なにが起こったんだ?何もかもが赤く見える…。ああ、俺やられちまったんだ…。
薄れ行く意識の中で、ガブリヨルは考えていた。
やがて完全に事切れた。 あの攻撃はなんだったんだ?デスナイトフレイムブレードとか言ってたな。まさか壁も豆腐を切るように斬るとはね。おそれいっ…、? …? ???
俺って死んだはずじゃ? あれ? なんでまだ意識があるの?
ガブリヨルは、確実にデスナイトの手によって息絶えていた。 この世界では、肉体から魂が抜けると、しばらく肉体の周りを魂が漂い、アインハザードの御使 いが魂を導きに降臨し、程なくして肉体は昇華し、魂は輪廻転生の準備に入るのだが、ガブリヨルは肉体から魂が抜ける事もなく、また肉体が昇華することもな く、まして魂が輪廻転生に入る事もなく、その場にとどまっていた。そして時は流れた…

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

『かあ〜ったりぃーなあ〜!』襲いかかってくるスパルトイやバグベアーを、ただ剣を一振りするだけで倒しながら、男は言った。
『けど、噂が本当なら見過ごせないでしょ?』こちらも襲いかかってくるモンスターたちを見もせずに倒しながら、笑顔で女は言った。
『だあってよお〜、ここのやつらって俺の敵じゃねぇぜ?ましてや、おまえまで付いてきちゃ、素手でもデスナイトを倒せちゃうぜ?』余程男は暇を持て余していたのだろう、襲いかかってくるモンスターへ、ヘイストの魔法をかけては、次々に倒していった。
『まあね、これが終わったら、ギランケイブにでも遊びに行ってみる?トライソウルは体力あるから斬りごたえあるわよ?この前あたし一人で行ったのよ。そし たらさ、あいつ・・・あ!あれじゃない?』相変わらず、モンスターを見もせずに倒しながら、女は転がっている物体を指差した。

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何も見えない。何も聞こえない。静まり返った暗闇の中でガブリヨルは、ただ、ただ横たわっていた。
(死んだらみんなこうなんだろうか?先生は魂が抜けて、暫く漂ったら御使いが御迎えに来るって言ってたんだけど。あれから随分と時間が経ったように思うん だけど、それともこれは一瞬の事なんだろうか…?)色々思いを巡らすも、死者となったガブリヨルには、何一つ確かめる術はなかった。
(・・・・・・・で・・か?) 何かがやさしく囁いた。
(復活したいですか? ガブリヨル・スレイン)やさしい囁きを、今度ははっきりと感じた。
(復活…?い、生き返れるのですか?)囁きの主に問いかけるガブリヨル。
(はい。汝が望めば、アインハザードの祝福と共に。)
(お願いします!御使い様!)
(では、ガブリヨル・スレイン。汝の魂と肉体にアインハザードの愛と光を!!)
ガブリヨルの全身が、眩い光に包まれた。
つづく(みたいです)

 

 

第6話 Bambiの願い

『目が覚めたかな?孤独な魔法使いよ』男がガブリヨルに話しかける。
『ん…、復活させて戴いてありがとうございます。私はガブリヨル・スレインと申します。』起き上ろうとするが、長い間死体になっていたので、体がうまく動かない。視界もぼんやりしていた。
『知っておる。まだ無理をするでない。完全回復には暫く時が必要であろう。今は休むがよい。』含み笑いを浮かべながら男は言った。
『一通り結界を張ってきたわ。2、3日は大丈夫よ。ところで、どうだった?』自分の結界の張り具合を確認しながら、女は尋ねた。
『御苦労。間違いなかったよ。』男は視線をガブリヨルに移した。二人は静かにガブリヨルの回復を待った。



『一興大義であった。さあ、我が前から消え去るがよい。』デスナイトの振り上げた剣が、ガブリヨルに襲いかかる。
『うわあー!』叫びながら、ガブリヨルは跳ね起きた。 夢か…、脂汗を拭いながら、自分がまだ生きている事を、いや、復活してもらった事を思い出した。
『目が覚めましたかな?孤独な魔法使いよ。』ローブを深々と被り、焚火を囲った二人組の一人が言った。声からすると男のようだが、ここからでは様子は解らなかった。
『はい。私はガブリヨル・スレインと申します。改めまして、復活させて戴いてありがとうございます。この御礼は…』珍しく真摯な態度で話すガブリヨルを、ローブの男は、最初は肩を小刻みに震わせ、次第に大きく震え、終いにはそれとわかるくらい大きな声を出して笑った。
聞き覚えのある笑い声、羽織ったローブが脱げ、男の顔が露わになる。
『御礼に何をしてくれるんだい?ガブ!肩たたき券じゃねぇだろうなあ?』大笑いしながら男は言った。
『?………!! 兄さん?! どうしてここへ?!』久しぶりの兄との対面に驚くガブリヨル。 それもそのはず。兄「ウニエル・スレイン」は立派な魔法剣士 として、その道の人には知らぬ者はモグリとまで言われるほどの有名人であり猛者であった。しかも最近傲慢の塔を制覇したり、龍の討伐に出たりと、およそガ ブリヨルと次元の違う所で活躍しているので、まさかメインランドケイブで遭うとは思いもしなかった。
『ばーか。新しい料理の本をこいつが欲しいってんで、グルーディオに行ったら村長さんから、お前が半年も帰ってこないから様子を見てきてくれまいか、と頼まれたんだよ。そうしたらこの様だ。』やれやれという手振りで、およその経緯を兄は語ってくれた。
『そんな事言わないの。あなたも少しは心配してたんでしょ?』女もローブを脱ぎ、姿を現した。綺麗な人だとガブリヨルは思った。『デスナイトにやられたのかしら?』そう問いかけられて、ガブリヨルは頷いた。
『かーっ!おまえ、そんな装備でデスナイトとやったのか?弱えぇのに勇気あるなあ!』別に勇気で戦ったわけじゃなく、気付いたら帰還することも出来ないくらいに追い詰められていた事を説明した。
『まだスクロール使ってんのか。おまえアレ余ってないか?そそ、それだ。』そういうと兄は4つのアミュレットをガブリヨルに渡した。
『これはな、主要都市へテレポート出来るアミュレットだ。軽く握って念じればテレポート出来る。これを首から下げるなりバッグに入れるなりしてれば、今回の様な無様な事にはなるめぇよ』相変わらず口は悪いが、気の利くやさしい兄であった。

久しぶりの兄弟の再開は、話が弾み尽きることを知らなかった。一番驚いたのは彼女の事で、兄さんの彼女かと聞くと、兄は男に興味はないといったことだ。
彼女は『今回はジルフェ』と名乗った。はじめは男の魔法使いで各地を旅したが、ある地で手にした古文書を解読し、転生の秘法を使えるようになったそうだ。 そのうちに転職の秘法も使えるようになり、更には術式を解読するのに成功。遊び半分で転性までやってるそうだ。だから兄は「男に興味はない」と言ったの だった。更にあり得ないと思える、種族の入れ替わりも出来るとの事で、エルフにもなった事があるらしい。一般魔法、精霊魔法、君主魔法、闇精霊魔法、騎士 の技術等々、色々マスターしているそうだ。力だけを追い求める兄の危うさを放っておけなくて、一緒に旅をしているらしい。

『今日は寝ようぜ。ガブ、明日お前に勉強させてやるから付き合えよ』久しぶりに兄と一緒に眠りに就いた。



― 次 の 日 ―
ガブリヨルが目を覚ました時には、兄はもう起きていて朝の修練を終えたところだった。
『おー孤独な魔法使いよ、起きたか。』 「孤独な魔法使い」とは、友達と遊ぶより、教会の片隅で一人で魔法の勉強をするのが好きなガブリヨルを見て、兄が 付けたあだ名だった。今思えば、最初に言われた時に兄と気付くべきだったのだが、蘇ったばかりだったので気が回らなかったのだ。
『さて、寝る前にも言ったが、今日はお前に勉強させてやるから、そのつもりでな。 さ、その前に飯だ!』 そう言えば、さっきからいい匂いがする。 兄の後ろをついて歩いて行くと、豪華な食事が待っていた。
ケイブの中のはずなのに、どこからこんな料理が出てくるのか不思議だった。
『あれ?ジルフェさんは?』 朝から彼女の姿を見ていない。
『ん?さっきコーヒーを取りにいったから、間もなく戻ってくるさ』 一体どこにコーヒーを取りに行ったんだろ…、と思ってると、兄の横にテレポートで彼女が戻ってきた。
『あらガブリヨル。おはよ。たった今朝食の準備が終わったところよ。』 そう微笑む彼女の片手に、コーヒーの入ったポットが握られていた。

ケイブの中なのに、まともな食事が出来るなんて夢にも思わなかったガブリヨルが、今のはどんな仕掛けかと聞いてみると、なんでもこれまた彼女が解読した魔法らしい。 全くワールドマスタークラスの人は底が知れない。 

そんな相棒が居る兄がうらやましかった。
つづく(いいかな?w)

 

第7話 ちぃの散歩1(冒険小説編)

『いいか、俺が先頭でガブが真ん中、ジルはシンガリな! 特にガブ、どんなことがあっても手を出すな、怪我 するから。 んでジル、処理に手間取りそうなときは、念のためにガブにイミュを入れておいてくれ。念のためだ。』出発前に兄が念入りに打ち合わせを行う。  ヒールくらいしようかとガブリヨルが提案するが、兄は『何もするな!』の一点張りだった。 少々物足りない気がするが、兄の言葉に従うことにした。 何 より兄達がどの様な戦い方をするのか、興味があった。

6階へ降りる階段を見つけ、兄が先に降りて行った。 降りてきてよいとの合図を受けて、階段を恐る恐るガブリヨルは降りて行った。 フロアには、30数体のケルベロスやバグベア、キングバグベアの死体が転がっていた。 

『あー、一人で楽しんでずるい!』後ろから降りてきたジルフェが、昇華しかけたモンスターを見ながら言った。
『いやいや、こんなんじゃ楽しめねぇし!』と兄が言った。 それはそうだ。これだけの数を相手に楽しむなんて、余程真剣にやらないと一瞬であの世行きだ。 それにしても、階段を降りて、時間なんて経ってなかった様な気が…?
  『こんな程度じゃ、ウォーミングアップにもなりゃしねえ。 まあ、ここの奴らじゃフロアを埋め尽くしてても一瞬だけどな』 

言われてみれば、兄は息一つ乱れてない。
『これ、兄さんがたった一人で? 一瞬? どうやって?』矢継ぎ早に質問を浴びせるガブリヨル。
『うーん、世の中不思議なことだらけだよなあ、孤独な魔法使いよ。』兄がガブリヨルをからかった。
『まあ、そのうちに見せてやるさ。 ささ、先に進もう!』 そう言って兄と共に歩みを進めた。

通路の途中で兄達の強さの片鱗を見た気がした。 襲いかかってくるモンスターを溜息交じりに一蹴する兄。後ろのジルフェはわき道から出てきたモンスター を、これまた暇だと言わんばかりに軽く退けて行った。 地面から湧き出たスパルトイなんか、ガブリヨルが驚きの声を上げたと同時に砕けると言った具合に、 圧倒的な強さ、速さをもって倒していった。 それでも、先程の6階に降りた直後の状況の説明にはなっていないと、ガブリヨルは思っていた。2、3体のモン スターだったら一瞬って意味も通じるが、30数体だとそうはいかない。 強さの対比上での話としても、例えば、自分がオーク30数体に囲まれたとして、果 たして息一つ乱さず、またかすり傷一つ受けずに一瞬で倒せるだろうか?とガブリヨルは考えていた。 答えは否だった。

7階に降りる階段の前で、兄はここで一寸待つように言ってから、降りて行った。 ジルフェと二人になったガブリヨルは、二人の強さの秘密について聞いてみた。
『それはね、単純な事なの。ただ強いか弱いかだけの差。それだけなのよ。がんばって強くなる事よ、ガブリヨル・スレイン。そうすれば答えに近づけるわ。』 魅力的な頬笑みを浮かべながらジルフェは答えた。それでも、もやもやを拭いされないガブリヨルが問いかけると、少しだけならもうすぐ見せてやれるかもと、 7階に降りる階段を見つめて彼女は答えた。
程なくして、兄から降りてこいと、声がかかった。 ただ、ガブリヨルにイミューンをかけてとの条件付きだった。
恐る恐る階段を降りて行くと、広いフロアにおびただしい数のモンスターがあふれかえっていた。
『ガブ!そこで見てろ!』 言われなくても、階段の途中で足が止まっていた。 それにしてもなんて数のモンスターだ。 そのモンスターに囲まれながら、兄ウニエルはモンスターの攻撃を軽くかわしながら、指示をしていた。

つづく

 

 

第8話 ちぃの散歩2(冒険小説編)

『ジル! お前のために集めてやったぜ! 楽しんでくれや!』 どうやら待つように言ったのは、モンスターを集めるためだったらしい。

『ありがとーウニエル! あなたのそんなところが好きなのよ\kv』 やほーぃと軽く叫んで、ジルフェはモンスターの海へ飛び込んで行った。
『ど・こ・で・し・よ・お・か・なー♪』モンスターたちの攻撃を無視するように、辺りを見回しながら、まるで散歩をするようにジルフェは歩きまわっていっ た。 よく見ると、攻撃を無視してるのではないらしいが、振り下ろされる武器を、手で少しだけ叩いて矛先を変えたり、一寸首を傾けてよけたりと、実に巧み だったが、驚くべきは、ほとんど相手を見ていない事だった。 兄の方はというと、やはりジルフェを同じだった。芝居で示し合わせたような立ち回りを、モン スター相手にやっている様な感じだった。


『おーいガブー!おまえバリア出来るかー?』兄が聞いてきた。 バリアとはアブソールドバリアの事で、絶対防御を誇る高々等魔法だった。 不幸にしてガブ リヨルはまだ修得していなかったので、出来ないと伝えると、カウンターマジックだけ唱えておくように、と兄から指示がでた。
『ここにきーめた♪』ジルフェがそう言うと、ウニエルに合図を送った。
『じゃ楽しんでくれ』そう言うと兄は姿を隠し、気付いたらガブリヨルの隣に座っていた。
『よく見ておけよ。少しは参考になるだろうからな。』 にやにやしながら、兄はそう言った。
兄が消えた事で、フロアすべてのモンスターが、ジルフェに熱い視線を注いだ。 当のジルフェは涼しい顔をしていたが、一瞬フロアが冷えてきたような感じがした。 ただならぬ気配を感じたのが、ジルフェとモンスター達の間に一定の距離が生まれた。
『よく見ておけよ。あれが闘気が生む結界だ。あの距離がジルの体術の間合いだ。』兄が状況を解説してくれた。 兄がジルフェに、剣を使うように言うと、ジルフェは剣を抜いた。さらにモンスター達との距離が空いた。
『あれが剣気の間合いだ。といっても、さっきの闘気も同じだが、ここのやつらは弱えぇから読みが甘い。実際はあの3倍はあるんだがな。』 どう考えても剣 を振り回しても、かすりすらしない程離れているのだが、その3倍とは、一体どんな剣技を持っているんだろうとガブリヨルは思った。
『いいか、こんな感じで気合いを出してやると、さっきまで突っ込んできていたモンスターが後ずさりして間合いが出来るんだ。つまり囲まれなくなるって事だ な。 囲まれなければ、あとは冷静に1体づつ処理していけるだろ?』 なるほど。言われてみればその通りだが、こんな数ではガブリヨルには無理そうだっ た。
『よーし、ジル。あとは好きにやってくれー!』兄がそう叫ぶと、ジルフェは剣を鞘に納め闘気を消した。
闘気が消えたのを感じたモンスターは、ジルフェに襲いかかる。 今度は攻撃をそれとわかるように避けるジルフェ。動きを大きめに、まるで弄ぶように攻撃を避けまくっている。 派手に動き回って、フロア中全てのモンスターが、ジルフェを倒そうと先を争って襲ってきていた。
頃合いと判断したのか、フロアのほぼ中央で何やら魔法を詠唱するジルフェ。片手を天につき上げ、魔法の詠唱を完了すると、一瞬視界が真っ白になった。ブリ ザードだ。しかもガブリヨルが繰り出すブリザードの数十倍の威力だ。味方が繰り出した攻撃魔法にも関わらず、ガブリヨルはなんだかめまいを覚え、体力まで 奪われていくような感覚に襲われていた。とっさに兄ウニエルが、ガブリヨルにフルヒールを唱えた。

『大丈夫か?』兄がガブリヨルに声をかけた。 ジルフェの繰り出した凄まじいブリザードに体力を奪われたと思っていたが、実際はブリザードに体力を奪われ たのではなく、大量のモンスターがブリザードによって、瞬時に絶命した時に発せられた、恐怖、怒り、絶望、哀しみの魂の叫びにガブリヨルがあてられたのだ が、ガブリヨルにとっては、初めての体験だったので理解できなかった。

モンスター達が昇華するのを待って、フロアに降り立った。
『ごめんねえ。大丈夫?』心配そうにジルフェがガブリヨルを覗き込んだ。
『兄がヒールをくれたので、なんとか…』体力はフルヒールで全快になっているものの、削られた精神力の回復には時間がかかる。
『兄さん、さっきのは一体…。味方の魔法で体力を奪われるなんて初耳だよ。』
『いや、あれはジルの魔法じゃなくて、モンスターが死せる時に発する、恐怖や、怒り、絶望、哀しみと言った魂の叫びに、お前の魂と体が反応したんだよ』兄が先程の現象を説明してくれた。
『これが今日の勉強の一つ。自分の成り立ちを知る事。話す前に一度体験していた方が、理解しやすいと思ってな。まさかここまでなるとは思わなかったが。』兄はすまん、と頭を下げた。
『ジル、今日はここでキャンプだ。準備を頼む。 ガブ、あとで続きを話すから、取り敢えず今は休め。』

兄に見守られながら、ガブリヨルは横になった。
つづく(かもしれない…)

第9話 bunkerの幻影 

スレイン家は昔、とある君主へ降魔師として仕えていた。 降魔師とは、降霊師の上位に位置し、死者の魂をそ の体に降霊させるのは元より、魔界から悪魔なども降ろしていたらしい。 その王国は繁栄を極めていたらしいが、とある一派がケイオスの世界との繋がりに成 功し、次々と悪魔を呼び出していった。 最初は国の更なる繁栄のためだったが、呼び出された悪魔たちはその禍々しさ故、王国に混沌を生み出していった。
同じ時期、他国ではギルタスなる、巨大な悪魔の召喚に成功したらしいが、その代償として多数の降魔師の命と体が犠牲となった。 ケイオスに心を蝕まれ始 めた国王は、対抗策として更なる巨大悪魔を召喚せしめる様、降魔師達に命じ更なる研究が進んだが、強大な悪魔たちを貧弱な人々が抑制出来るはずもなく、や がて最悪の事態として、この地上で悪魔たちの戦争に巻き込まれることとなった。
国は滅び、人々は散っていった。 ある者は野に下り、ある者は身をひそめた。 そして年月は過ぎて行った。

『という事だ、孤独な魔法使いよ。人ってのは悲しい生き物だねえ』一通り話し終わると、兄ウニエルはいつものように、おちゃらけた。
『じゃあ、僕たちは降魔師の血をひいてるってこと? けれど、それとさっきの僕の身に起こった事は、何の関係があるの?』まだ全快ではないが、元気を取り戻しつつあるガブリヨルが素直な気持ちで兄に聞いた。
やれやれという仕草をしながら、兄はバックから魔力の石を取り出した。
『儀式とか呪とかを除けば、俺たちの血はいわゆる、これよ。触媒なんだよ。』
そう、霊や悪魔たちにとって、ガブリヨル達の体はその魂を宿し、再び生を繋げるための道具になりえるのだった。 先程の出来事は、瞬間的に大量のモンスター達が絶命したが故に、一気にガブリヨルの体を奪わんと押し寄せた結果だったのだ。
『どうにもならないの? けど兄さんは別に何ともなかったの?』ガブリヨルは一寸混乱していた。
『まあ、強くなる事だ。 それは体力もそうだが、何より精神力を鍛えることだな。強くなれガブリヨル。』兄はガブリヨルの肩にそっと手を乗せた。

『けどガブリヨル、強さだけを求めちゃだめよ』ジルフェが兄ウニエルを意味深に見ながらガブリヨルに語った。
『さ、難しい話はここまでよ。 今日はもう寝ましょう。』どこから持ってきて、どこで着替えたのか知らないが、ジルフェは寝間着姿だった。

『そうだな、次は戦い方の勉強だ。明日も忙しいなあ、孤独な魔法使いよ』 兄がまた一段と大きく見えた。
つづく(そろそろあきた?)

 

第10話 白歴史の嫉妬

『解るかー?ガブ。俺とお前の違い。ただ力が強いとかじゃないぞお。』相も変わらず、兄ウニエルとジルフェは、ろくに相手も見ないで次々とモンスター達を倒していった。
『技の習得とかの違いはあるけどな。お前には速さが足りてないんだよ。杖や鈍器はな素早く扱ってこそ、その真価が発揮できるって物なんだ。剣だとこの程度 の振りで相手を斬り倒せるが、それは鋭い刃があってこその話だ。ちょっとお前の杖を貸せ。』言われるままに、愛用のアイアンマナスタッフを兄に渡す。
『これには刃はついてないだろ?これで相手を斬り倒すにはな。』そういって兄ウニエルは「キングバグベア」をアイアンマナスタッフで斬り倒した。杖の先が見えないほどの素早い斬撃に、ガブリヨルは息をのんだ。
『な?素早く振れば、こうやって斬り倒せるだろ?お前みたいにただ単に殴るだけじゃ、この先やっていけないぜ?』
兄ウニエルの攻撃は、杖は殴るか突き倒す武器だとしか、頭になかったガブリヨルに全く斬新な攻撃に見えた。 素早い取り回しで、次々とモンスターを斬り倒していく姿を見せつけられ、ただただ驚き顔で見ているガブリヨル。
『お前も剣を覚えろよ。俺が直々に鍛えてやるからよ。』一通りモンスターを倒し終わった兄が言った。

兄ウニエルは、とある部屋の前で立ち止まった。
『ジル、ガブにバリアのスクロールを渡してやってくれ』ジルフェからスクロールを貰ったガブリヨルは、そのスクロールに見たこともない術式が書いてある事に気付いた。
『それはな、アブソールトバリアのスクロールだ。貴重なスクロールだが、俺が使えと言ったら迷わず使えよ。』そう言い終わると、部屋の中に入って行った。
『あれ・・・。いねえ・・・。』ジルフェに何やら合図を送って、兄は部屋の中央に立った。
『ここはな、デスナイトの根城だ。城と言ってもただの部屋なんだがな。お前、上でデスナイトに遭ったろ?ああやって時々自分のテリトリーを回っているん だ。 ま、ここに居れば戻ってくるから待ってようぜ。』デスナイトがいつ戻ってくるかもしれないというのに、兄は床に座ってくつろぎ始めた。

うとうとしかけたガブリヨルを、兄ウニエルは揺さぶり起こした。
『奴が帰ってきたようだ。ガブ、お前はジルと一緒に離れて見てろ。ジル、ガブを守ってやってくれ』何も聞こえないが、言われるままに部屋の隅へと移動した。
程なく甲冑の擦れる音が聞こえた。あの不気味な剣を振る音と、何かが砕ける音がした。

『我が留守中に侵入せし不埒者はうぬらか!』相変わらず迫力のある声でデスナイトが言った。
『ふっ…、我が警告を無視し侵入してきた事、死を以って購うがよい!ってのは、お前さんのセリフだったかな? 俺の警告は無視してここに来たようだな?』兄が挑発するようにデスナイトに言った。
『我が名はデスナイト・カイイーン! 我が前から消え去るがよい!』そう言い放つと、多数のスパルトイが一斉に地面から現れた。
『すごい…、僕の時の倍は居る』ガブリヨルの脳裏にあの光景が蘇る。青ざめるガブリヨルにジルフェが『大丈夫よ』とそっと呟いた。
『おいおい、相変わらずスパルトイかよ。少しは進歩しろよ』そういうとウニエルは剣を手に取りデスナイトに斬りかかった。
スパルトイ達がウニエルを囲もうとするが、ウニエルの動きの方が早かった。あっという間にデスナイトとの間合いを詰めたウニエル。デスナイトを斬り倒すかと思いきや、さすがデスナイト。その剣でウニエルの剣を受け止めた。
『少しは出来るようだな。だが我を倒すに至らぬわ!』余裕で剣を受けたデスナイトであったが、次の瞬間目を見張った。ウニエルの後ろに居たスパルトイ達が一斉に弾け飛んだのだった。
『仲間の援護に感謝する事だな。しかし我が剣を止める事叶わぬ!』そういうと、デスナイトは一瞬剣をひき、ウニエルの横腹を薙ぎに行った。
『ん?勘違いするなよ?俺一人しか戦ってないぜ?』これまたデスナイトの斬撃を余裕で受け止めるウニエル。
『お前には俺の剣が見えてないようだな。まあ至仕方ないか。』また挑発するウニエル。
『ほざけ!』デスナイトが凄まじい連撃を行う。

『今度は解るかあ?ガブ?』デスナイトの凄まじい攻撃を、片手で剣を振りながら受け流すウニエルが聞いてきた。
『素早い攻撃が出来るって事は、素早い防御も出来るって事だ。あとは相手をよく観察すれば攻撃の予測が出来るから、防御の対応も攻撃のタイミングも的確に 出来るようになるんだ。』デスナイトの凄まじい攻撃が嘘のように、ゆっくりとした口調で説明する兄ウニエル。時々ガブリエルの方を見ては、色々と説明をし ていた。
『さて、そろそろ終わりにするかな。ガブ!バリアを張れ!』いわれるままに、スクロールに息を吹き込み、アブソールトバリアを発動させた。
バリアの発動を確認した兄ウニエルは、それまでと一変して凄まじい気を放った。 デスナイトの連撃を上回ろうかという程の攻撃で、あっという間にデスナイトを隅に追い詰めた。
『魂のスペアは持ってるだろうな? じゃ、お前の剣戴くぜ?』そう言うとウニエルはその壁ごとデスナイトを斬った。

一瞬ガブリエルのバリアが光った後に、デスナイトの体は昇華していった。後にはデスナイトフレイムブレードが残っていた。
『ほれ、俺からの贈り物だ。これで剣技を磨けるな。』さっきまで戦っていたとは思えないくらい、兄は平静だった。

デスナイトは己を倒しに来た者を、時々取り込み時を生きながらえている。そして取り込まれた者の生命力と魔力で、デスナイトフレイムブレードを精製してい る。稀にダークエルフを取り込んだ時には、ロンドゥデュアルブレードを精製する。デスナイトの本体は決して消滅せずあの世を漂い、時折人々の前に姿を現 す。その際に運のない剣士はデスナイトに取り込まれ、その肉体を核としてこの世に留まるのだ。降魔士の血をひくガブリヨル達は格好の依り代となりやすいの で、デスナイトを倒す前にガブリヨルにアブソールトバリアを張らせたのだ。
一通り兄は語り終えると、ジルフェと何やら相談していた。 
『そうね、いい頃かもしれないわね。ガブリヨル、これを手に取ってごらんなさい。』ジルフェが小さな壺を取り出した。
ガブリヨルが手に取り壺のふたを開けると、中に液体が満ちていた。
『これは、なんのポーションです?』匂ってみるが、知ってるポーションの匂いはしなかった。

『飲んでみれば解るわ』ジルフェがいたづらな笑みを浮かべた。

つづく(長いなw)

 

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